私が着物業界に飛び込んだきっかけ『みすゞうた』

あかい椿が咲いていた。

生成りの格子に浮かぶ真っ赤な椿。

“着物”って、和柄でおしとやかで、冠婚葬祭のきちっとしたものだけじゃないの?

「この着物、可愛い」

呉服屋の店頭に並んでいた、華やかなポリエステルの洗える反物。

私の目に飛び込んできたのは、詩人・金子みすゞの詩『郵便局と椿』をモチーフにデザインされた小紋だった。

当時2016年、『みすゞうた』というブランドが立ち上がった同年に売り出し始めたばかりだったようだ。

祖母のお付き合いで行ったであろうその呉服屋さんで、気づけば私が反物を着せてもらっていた。

その着姿に魅了され、『誕生日プレゼント』を口実に一式揃えて貰った。とんでもないおねだりスキルである。

現状、元を取りすぎるくらい着倒しているので結果オーライ。

「普段の着物を買ってもらったからには、自分で着られるようにならねば!」

思い立ったが吉日。その呉服屋さんで開催されていた『ワンコイン着付けレッスン』に通う事に決め、結局2回くらい通ったところで「イケるやん」と残りを独学で学んだ。

この頃ネイリストからの転職を考えていた私は「せっかく着物が着られるようになった事だし、着物屋で働こう!」と、未経験の状態で新店舗のオープニングスタッフに応募し、パート入社から着物人生が始まった。

そう、ノリと勢いである。

めちゃくちゃ着物が好き!!というわけでも、着物文化を広めたい!!という確固たる信念があったわけでもない。

叔父が歌舞伎役者である事からなるべくしてなったかのように思われる事も多いが、着物屋になる前は歌舞伎を観に行った記憶もなければ着物談義をした事もない。

ただ環境として着物が身近であったことと、私が着物の道に進む事を着物好きな祖母が喜んでくれた事は確かに大きい要因だったように思う。

それでも、飽き性で見切りの早い私が着物業界に飛び込んでから早8年。

一般呉服全般の売り手から、店長職で着付レッスンの講義や着物のお出かけ会、イベントの企画などを経て着物ライターへ転向し、現在振袖専門店で現場に立つ。

紆余曲折、形は変わりながらもずっと着物に携わる仕事を続けている。

『郵便局の椿』で詠った金子みすゞの家の斜め向かいにあった赤い椿は無くなり、新しいペンキの匂いが切ないけれど。

不変なものはなく、時は移ろうけれど。今の私は、着物が好きだ。

四季を楽しむ、日本らしさがふんだんに詰まった伝統的な美しい装束。

文化としての着物はもちろん、普段着としての魅力もある。

デザインも豊富で、常に進化を続けている着物の世界が面白く興味深い。

半衿、帯締め、帯揚げなどの小物で個性を出したり、ちらりと見える裏地にこだわりを入れたり。

コーディネートの中に季節を反映させたり、物語をつくったり。

伝統的にお堅いだけでなく、自由にそんな楽しみ方ができる着物が、私は好きだ。

もうすぐクリスマス。

次回は私流のクリスマスコーディネートを紹介してみようと思う。

着物は自由。

好きに、楽しもう。

この記事を書いた人
碧井あんり

碧井 あんり(@anp_kimono

神奈川県出身。歌舞伎役者の叔父と祖母に影響を受け、20歳未経験で着物業界に飛び込む
。着物専門店で呉服全般の経験を積み管理職を務めたのち着物専門ライター・SNSディレ
クターとして活動。現在は神奈川県の振袖専門店で現場に立ち、成人式という人生に一度の
節目に携わっている。
好きなものは、アイドル「嵐」とお酒とカラオケ。
一張羅の着物は、前田仁仙の型染小紋。

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