美しく、浪漫あふれる花模様が着物全体に咲き誇る辻が花着物は、結婚式や成人式など、お祝いの席を華やかに彩る着物として人気があります。
そんな辻が花にはどんなデザインがあるのか、どんな場面で着用したらいいのか、値段はいくらなのかなど、辻が花について解説していきます。
辻が花染めとは
辻が花とは、一般に絞り染めの技法のことを指します。
辻が花染めとも呼ばれ、立体的に浮かび上がる花模様と多彩な色彩が魅力的な技法です。
その歴史は古く、室町時代から始まります。
辻が花の歴史
辻が花技法の着物が初めて歴史に登場するのが室町時代です。
当時は絞り染めの技法に加えて刺繍や摺箔(布地に糊で金箔を貼り付ける技法)が加わった華やかな装いは、武家から庶民まで流行しました。
その後、江戸幕府による贅沢禁止令や、友禅技法の発達によって辻が花は衰退し、長く「幻の技法」とされてきました。
現代の辻が花
長らく幻と言われていた辻が花技法ですが、昭和に入り染織家・久保田一竹(初代)によって辻が花の新たな技法が確立され、「辻が花ブーム」がおこります。
久保田一竹によって確立された新しい技法は、室町時代と区別するため「一竹辻が花」と呼ばれています。
技法・デザインの特徴
絞り染めを基本として、友禅など数々の技法を取り入れて作られるのが辻が花の特徴です。
また、一口に絞り染めの技法といっても、いくつもの種類があり、それらをかけ合わせることで立体的で多様な美しさを演出しています。
デザインの特徴
辻が花のデザインは染織家や工房によって作り上げられた本格的な「辻が花染め」のほか、デザインのみを模した「辻が花風」と呼ばれる簡易的なバージョンがあります。
辻が花のデザイン
辻が花のデザインには、多種多様な色彩が使われるとともに、華麗な絵模様がリズミカルに配置されています。
絞り染めによって立体的に浮かび上がる複雑な絵模様は、絵画のような印象を与えます。
辻が花「風」とは
辻が花風とは、辻が花の模様を模して作られた着物のことです。
辻が花の絞り染め技法を使わないため、「辻が花風」と呼ばれています。
複雑な技法を使用しない辻が花風着物は、辻が花より安価な値段で手に入れることができます。
主な絞り染め技法の特徴
辻が花の主な絞りの技法は次の3つです。
縫い取り絞り
下絵を書き、模様の輪郭を細かく縫って絞り染めを行う技法です。
この技法だと、複雑な絵模様をつけることができます。
帽子絞り
てるてる坊主のような絞り部分に芯を入れて染色液を浸透させないようにします。
そこに上からシートや竹皮をかぶせて糸で巻き付けます。
かたちが帽子に似ているためこの名前がつきました。
桶絞り
文字通り、桶を使って染める技法です。
染めない部分を桶の中側に入れて、桶に沿って縫っていき、蓋をして固定します。
大きな模様を入れたい時に使用されます。
これら3つの他にも、辻が花には数多くの染の技法があり、工房ごとに使用する技法も異なります。
そうした染め技法の組み合わせにより、辻が花のデザインは無限に広がるのです。
辻が花の代表的な作家・工房
辻が花の染め技法は、染色作家や工房によって発達してきました。
久保田一竹
江戸時代以降、一度衰退した辻が花染めを復活させた立役者の一人が初代の久保田一竹です。
化学染料を使うことで色の定着と多彩な表現力を可能にしました。
着物全体に富士山があしらわれたモチーフにした「富士山」や、グラデーションの美しい「光響(こうきょう)」などの作品は海外でも高い評価を得ているのです。
その一竹辻が花の技法は初代亡き後、次代に引き継がれています。
大脇一心
大脇一心氏は室町時代の辻が花の復元に努められた染色作家です。
彼の作品は「西洞院辻が花」と呼ばれ室町時代の辻が花に近い雰囲気の中に、現代的なセンスが取り入れられています。
墨の濃淡で描かれる花模様が特徴的です。
翠山 辻が花
翠山工房の辻が花の特徴は、ぼかし染め、手描き友禅に加え、工房オリジナルの絞り染め技法によって独自の辻が花デザインを確立しました。
また、作業工程をすべて新潟県の工房で行っています。
辻が花着物の種類
辻が花模様の着物は、冠婚葬祭の礼装や準礼装として着用されるほか、観劇やパーティーなど、ちょっとしたお出かけでのおしゃれ着としても活用できます。
訪問着
訪問着は準礼装として未婚、既婚どちらでも着用できる汎用性の高い着物です。
辻が花の訪問着には色、紋様ともに多様なバリエーションがあり、お出かけのシーンに合わせて選べます。
礼装
未婚女性の振袖と既婚女性の留袖は、礼装用の着物として着用します。
振袖
未婚女性の礼装である振袖は、成人式や結婚式など、フォーマルな場面で着用します。
華やかな印象のある辻が花の着物は、ハレの日のふさわしい装いです。
また、七五三で着用する子供用の辻が花振袖も作られていますので、お子様の記念すべき日の記念にふさわしい装いになります。
留袖
留袖は既婚女性の第一礼装で、結婚式で親族の既婚女性が身につけます。
下半身にのみ模様が入るのが特徴です。
辻が花の留袖は流れるように美しい花模様が配置され、結婚式の装いに最適なお着物です。
日常着
辻が花の絞り染め技法は、正絹以外にも紬や麻ポリエステルなど、さまざまな種類の素材で制作されています。
絹以外で作られた辻が花は、礼装や訪問着よりも気軽な日常着として着用できます。
また、絹素材の中でもランクがあり、お召、紬といった絹素材で作られた辻が花着物は日常的着用が可能です。
辻が花着物の選び方
全体に華やかな模様を施した辻が花は、主にフォーマルな場面で利用されることの多いお着物ですが、TPOによって選ぶべき着物が変わってきます。
場面や内容に沿った辻が花選びが必要です。
シチュエーションに合わせた選び方
冠婚葬祭での着物の着用は、種類や着付け方の細かいルールがあるので、着物選びに注意しましょう。
また、式典の雰囲気やご自分の参加する立場によっても着用する着物の種類が異なりますので前もって確認しておく必要があります。
結婚式
結婚式で着用する辻が花は、立場によって選ぶべき色や着物が違います。
新郎新婦の母親なら黒留袖、親族なら色留袖か訪問着を着用します。
あくまでも主役である新郎新婦を立てるため、派手すぎない色や柄を選びましょう。
成人式
成人式で未婚女性が着るのは袖の長い振袖です。
全体に辻が花紋様を施された振袖は記念すべき日にふさわしく、華やかな印象を与えてくれます。
古典的な美しさと現代的なセンスを併せ持つ辻が花の振袖は、現代風なコーディネートにも合わせやすいのです。
式典・パーティー
七五三やお子様の入学式などに着る辻が花の着物は、主役であるお子様よりも控えめな色やデザインを選びましょう。
白やアイボリーなどのシンプルな色合いや模様は奥ゆかしい印象を与えます。
辻が花着物の帯選び
華やかで壮麗な辻が花の着物。
そんな辻が花着物の芸術性を引き立て、調和するための帯選びが重要になってきます。
色選び
着物と同系色であわせると落ち着いた印象になり、反対に明るい色の帯をあわせれば若々しく鮮やかな印象を与えます。
デザイン
帯のデザインはシンプルな図柄ものを選ぶと、辻が花の華やかな紋様が引き立ちます。
小紋など日常使いの辻が花にも無地や縞といった地味な帯を使うことで全体のバランスがよくなります。
辻が花帯と着物
逆に、辻が花染めで作られた帯をつける場合は、シンプルな着物を合わせると帯が引き立ちます。
辻が花はどこで買える?値段と購入場所について
辻が花着物は、冠婚葬祭からパーティーなど、目上の方からのお呼ばれにも安心して着用できるため一着用意しておくと重宝します。
辻が花着物の値段
高級というイメージのある辻が花の着物ですが、技法や素材、作者やデザインによって値段には大きな差があるのです。
また、中古やリサイクルのものでしたら新品のお仕立てものより格段に値段は下がります。
作家物
作家が制作する辻が花は高価な物が多く、なかでも久保田一竹などの作家物は観賞用のアート作品として美術館に展示されるほど価値が高くなっています。
中でも、初代の久保田一竹が手がけた美術作品の中には、数千万円もの値段がつくものもあります。
工房作品
作家が手掛けた一点ものの辻が花は高級品ですが、工房で手掛ける着物の中には、購入可能な金額の着用着物もあります。
例えば、辻が花工房が制作した着物の値段相場は50万〜150万円程度です。
辻が花風
辻が花風着物は、本物の辻が花染めより安価で手に入ります。
辻が花の模様を染めるだけですので、複雑な工程を必要としません。
そのため、値段も抑えられるのです。
辻が花風着物の値段相場は安いものなら1万円代から、20万円程度で購入できます。
辻が花着物を購入するには
実際に辻が花の着物や帯を購入する場合、前もって予算や使用するシチュエーションにあわせて購入するお店を選びましょう。
呉服店
【メリット】
「自分好みの色や柄を選びたい」「紋を入れて冠婚葬祭に着ていきたい」などの要望に応えてくれるのが呉服店です。
専門のスタッフに相談することで、自分にあった辻が花を購入できます。
さらに、自分の体型に合わせたお仕立てもできます。
【デメリット】
反物や仕立て代をあわせると費用がかさみますし、信用できる呉服店でないと、高い金額のものや、好みと違うものを勧められるなど、トラブルもあるので注意が必要です。
リサイクル着物
【メリット】
「辻が花を着てみたいけれど、値段が高い」とお考えの方は、辻が花を扱うリサイクル着物店で探してみてください。安いものであれば一万円以内で購入が可能です。
【デメリット】
値段が安い分、使用感があったり、シミがついていたりと汚れが気になる場合もあるので注意が必要です。
レンタル
【メリット】
辻が花着物はレンタル店でも取り扱いがあります。
「購入はできないけれど冠婚葬祭で着てみたい」、「購入する前にいろいろなデザインを試したい」など、気軽に辻が花を体験できます。
【デメリット】
着物選びや着付けで何度も店を訪れる必要があるほか、気に入った柄の着物がすでにレンタルされていることもあります。
また、どんなに自分好みの着物に出会えても手に入れることができません。
まとめ
辻が花着物の歴史と技法、選び方についてお伝えしてきました。
美しい絵柄で着物全体を彩る辻が花は、フォーマルな場面で着用されることの多い着物です。
そのため、TPOに合わせた着物選びや帯のコーディネートを考える必要があります。
また、高級な着物という印象のある辻が花ですが、技法や素材、仕立てやリサイクルなどによって値段に大きな差があります。
気軽に手に入れることができる辻が花の着物もありますので、購入する場合はご自分の予算と着たい場面にあった辻が花を選んでみてください。